2014年5月24日土曜日

「印傳極楽金魚」⑤希守池實


「なんじゃこりゃじゃなかバッテン。おまん、やっと起きたとね。脳足りんの頭は大丈夫ね。したたかにうっちゃったのね。驚かんでもよかっちゃ。おぬしの愛する出目金ちゃんタイ。」ケイスケは頭を自分の手のひらで数回叩いて眼をこすった。
「そぎゃん、頭叩いたら、ますます脳足りんになっちゃう、でしょうが。ま、落ち着かんね。現実を直視せよ。」ケイスケは金魚鉢に近づいて、じっと出目金を見る。
「はあー、はあー、はあー、何なのこれは。」
「そう驚かんでもヨカ。」
「驚くとかレベルじゃなくて、どういうことなの。やっぱ、俺だめになってしまったのかな。麻薬中毒でもないのに、なんでこんなにはっきり幻覚がみえるのかな。おれは廃人になってしまった。」
「廃人も同様タイ。今のおまんは、俳人やったらよかったのう。」
「ななな、なんだ。あんたは何だ。」
「見てのとおり出目金じゃけんのう。優美な雅なランチョウですがな。現実を直視せよ。イナトミケイスケ青年。」ケイスケは後ずさりして、金魚にガンつけた。
「安心せい。ワテはな、おぬしを救いに来たんじゃ。救世主タイ。エンジェルぞ。君にとって。だから心静かに受け入れなさい。現実を。神はあなたのすべての不幸を背負ってくださっている。」
「どういうことなんじゃ。ぎょ、し、しまった。口振りが似てしまった。どういうことなの。これは。」
「礼儀じゃな。まず、挨拶せにゃ、いけませんなー、どすえ。」
「おいでやす。じゃなかった。なんてこったい口振りが・・・あああ、どうにかしてくれ。どうかしてしまった。」
「主様をどうにかするために、わしはここに来たんじゃ。どげんもこげんもならんやつをどげんかせんといかんと、大御神に使命を受けてな、ミッションインパッセブルではなく、ミッションパッシブルで来たんじゃ。気を楽にせよ。今からワテの事情を話してやるケン。お気を確かにお殿様。」
「どうでもいいけど、そのしゃべり、口調はどうにかならないのでしょうか。あーあ、なんかおかしくなってしまった。」ケイスケはやけくそ居直って落ち着き始めた。
「死んでなかったの。あんた。」
「だから、おぬしがなかなか起きんかったから、わしも寝てしもうたと言ったじゃけんのー。」
「そう。でも一安心。死んでなくてよかった。何にもまして死というのは、最大の不幸だよね。」
「その心優しさが、わしは好きじゃ。やっとおまんを愛せるようになってきた。じゃが、その優しさがおぬしの人生をちょっとだけ淋しくしとるかも知れんな。でも最後はその心優しさが勝利するんじゃ。安心せい。」
「気持ち悪、愛してくれなくて結構ですよ。でも僕の人生がどうのこうのって、なんかおこがましくない。ほんとにあんた誰。」
「よう聞きなはれよ、理解力のないその耳かっぽじいて、聞きなはれ。安心せよ、鼓膜も腐っとらんでよ。聞きなはれ、聞かんカイ。」
「どうにかなりませんか、そのしゃべり。どこの方言なんだよ。いちいち耳障り、思考停止。でも僕の思ったことわかるの。」

「我が名は、“印傳極楽毘沙門”インデン・ゴクラク・ビシャモンという高貴な名を大御神からさずかっとる。今回は大目玉の金魚を身にまとっておるから“印傳・極楽金魚・毘沙門”と名のることになりますね。」<つづく>

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