2013年5月30日木曜日

「さらばカサノヴァ」第一章

[カサノヴァ探偵局]序章
第一章”デジタルエラーは突然に”

 北條盈(ホージョーミツル)は狭い階段を、一直線に三階までのびている階段を一気に昇って行った。
 一階は焼き肉店、二階は比較的年配者、団塊の世代?が立ち寄るカウンターバー、三階は若者、馬鹿者が酔いたいがために、面倒でも三階まで昇ってくるミュージックバー。細長いワンフロア―30坪くらいのバーである。
 北條は40を過ぎた年齢である。中年の域に達しているが若者常連客が集まる店を好むのは、若い連中に交じってバーボンソーダを飲みながら、記憶に残らないバカ話をしたいがためである。
三階まで、ここ連日連夜通っている。
 二階で留まるには、まだいやだ。常連のジジイ達に交じって他人事の話や自分勝手な昔話し、ましてや学生運動時代の話は、笑い飛ばしているオヤジならいいけど、真剣に当時のイデオロギー話に合わせる気持ちなど毛頭ない。失敗した運動を検証して、さて次は成功するだろうか。世界同時革命は実現するのか、しなければならないのか。悩むほどの時間は持ち合わせていない、俺には、そんなことより今日はどんなうまい酒にありつけるか、いい女はいるか、そんなことしか未来は憂得ない。
など俺はぶつぶつ一人悪態をつきながら、無理して軽やかにステップ踏んで昇りきった。
ペインフルレインというバーだ。ペイン、痛みという意味だったかな。痛々しい雨ということなのかな。若い連中が来る割には店名が意味深で、ジジくさいな。と思いながらも俺は重い扉を引いて、美術セットのようなインテリアの店内に入った。
 ニール・ヤングの”ハーベスト”がLP盤で回っていた。ニール・ヤングが金の心を探して、孤独の旅路を歩んでいる曲だった。