2014年5月19日月曜日

「印傳極楽金魚」③希守池實


 本番では、見た目そのままのタレントの名前が出た。大きな目玉をおっぱいに例えて、煌びやかさも似て、こんなにオッパイってパンパンに腫れ上がるのかと思うくらいのオッパイを張り出した謎の爆乳セレブタレント姉妹がターゲットにされ、それなりに笑いをとった。プロデューサーとディレクターの狙い通りにはなったようだけど。
その金魚鉢とその中に出目金がケイスケの部屋に居座っているのだった。ひどい二日酔いで金魚の目と同じように腫れぼったい眼をしたケイスケは、幻影の中に叫ぶ出目金を見ていた。“叫ぶ詩人の会”は知っているけど、叫ぶ出目金は知らない。
「あーあ。飲みすぎで頭完全にイカレてしまった。」ケイスケはよろよろと立ち上げり、冷蔵庫にあるミネラルウォーターを探したが、昨日コンビニで買ってきたはずのボトルは見当たらなかった。水道水を飲んだ。
「不思議と東京の水はうまいよな。海外に行ったら水道水を飲むなんて、相当腹痛を覚悟しなければならないよな。」と一人ごちながら、簡易ベッドに戻って横になった。
病院をロケセットに使うドラマのロケをしたときに、捨てるという病室の簡易ベッドをもらってきたやつだ。ロケ中美術セットのセッティング待ち時間の雑談の中で
「自分は独身アパート住まいでベッドがないのだけど、こういうサイズのベッドは独身者にはちょうど良いですね。」などと話していたら、ロケ終了後プロデューサーが
「おい、イナトミ。このベッド、捨てるらしいからもらって帰って良いらしいぞ。」とお達しがありもらってきたやつだ。それは制作費で処分する予算がかからなくて渡りに船だとプロデューサーのせこい考えのはずだ。
終了後仲間に手伝ってもらって分解し、帰りのロケ車で自分のうちまで一回りしてもらって手に入れたやつだった。
誰かがこのベッドの上でご臨終なさったベッドかもしれなかった。幻影や幻聴が聞こえるのは、その崇りかもしれないと思いながら恐る恐る金魚鉢に眼をやった。

昨日のロケ終了後AD仲間とともに水が漏れないように蓋をして金魚鉢抱えながら飲み屋に直行した。最終日ロケが終了すると、とりあえず翌日はオフになる。必ずといってよいほど打ち上げ、反省会と称して飲みに行く。昨日は珍しくプロデューサーも監督ディレクター陣は別のタレントとのパーティがあるからといって参加せず、ADだけの打ち上げになった。

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