2014年5月18日日曜日

再び「印傳極楽金魚」①

「印傳 極楽金魚」(希守池實著)

一、君の未来は明るい
「おい、そこのボケ。はよ、起きんかい。二日酔いで寝てる場合じゃないじゃろが。こら、はよ、起きろ。チョンボ野郎、とんま、のろま、人生の落伍者、人間失格者。ドンくさいやっちゃな、そろそろ起きて、生き様を考えんと、どうしようもならんぞなもし。とろくさいやっちゃのー。」
 ケイスケは鉄のお盆で頭をごんごん殴られているような衝撃の中、怒鳴り声を聞いていた。というよりこれは幻聴だ、夢の中だと思わざるを得なかった。思いたかった。幻視の中では金魚鉢の中の出目金が叫んでいるのだった。確かにケイスケは撮影の小道具で昨日使った金魚鉢と出目金一匹を自宅に持ち帰っていた。
「こら、ボケナス。これを夢の中だとおもうとるんと、ちゃうやろな。現実やぞ。お前はもう崖っぷちの人生なんですよ。武士語言えば切羽つまっとる、いうねん。わかっとるんか。なすボケ、間違うたぼけナス。」
 テレビのバラエティ番組で使う小道具として、出目金を用意することになった。めちゃめちゃ眼がでかくて、飛び出していて、豪華で煌びやかなヒレをなびかせて、腰が締まっためちゃめちゃボディコンの出目金を用意せよとアシスタントディレクターのイナトミケイスケに指令が出された。“さてこの金魚はタレントの誰に似ているでしょうか。”というコーナーが作られ、お笑いタレント総勢がだれそれと答えて笑いを取る新コーナーらしい。
 ケイスケは早速、インターネットで情報を得て、金魚屋で買い求めてきた。監督のイメージどおりの金魚は三万円ほどした。あまりにもイメージどおりだったので、プロデューサーの意向も聞かずに請求書扱いで購入したのだ。
 持ち帰ってスタジオで監督とプロデューサーに見せたら、監督はイメージどおりだったので何も言わなかったが、スタジオの隅にプロデューサーにしょっ引かれて、金魚の目玉よりも大きな大目玉で怒鳴られた。
「ばかやろう。お前、この制作費いくらか知ってんのか。ワンコーナーの小道具で三万も使えると思ってんのか。レンタルしてくるのが普通だろう。ボケカス。相変わらず出目金野郎?間違えた“仕事できんやつだ”お前のギャラから引いとくからな。」
「そんな、三万もギャラから引かれたら生活費ほとんどないじゃないですか。」
「馬鹿、一発じゃ引かんよ。毎月一万づつ、三回でな。」
「そんな、殺生な。」

「終わったら、お前持ち帰るなりどうにかしろよ。」とプロデューサーは捨てゼリフを言って、まさか買ってくるなんてとぶつくさいいながら、去っていった。

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