2014年6月9日月曜日

時代劇映画シノプシス「相良藩の夏」物語。希守池實


≪物語≫

寛文三年六月某日(よく晴れた早朝)

繊月城(相良城)は、その背を険しい山に守られて表は急流球磨川を堀とし、
そそり立った石垣に武者返しが見事な守りの名城である。
その城へ城下からただ一本かけられた水の手橋
(その橋の袂に船着き場が設けられているため、そうよばれている)があり、
そのたもとの船着き場では国家老の恒松義彦ほか
多勢の留守を預かる者たちに見送られて、
藩主相良義光が参勤交代の為に、
今しも江戸へ向けて出発しようと、球磨川下りの船に乗っている。
 早朝にもかかわらず対岸では、藩民総出の見送りが祭りのようににぎやかで、
郷土自慢の勇壮な鹿踊りや太鼓踊りが披露され活気を呈している。
お供の侍衆の舟には槍がまっすぐに立ち並び、
腰元衆や荷物の舟には色とりどりの旗が風いっぱいに舞っている。
 天守の太鼓を合図に船頭たちの威勢のいい掛け声響き、
十数隻の舟行列は一隻また一隻と、船頭たちの舟唄にのって、
お城の舟寄せを離れ、球磨の急流へと漕ぎ出していく。
 舟行列の出発と同時に、
旗差し物に鎧兜できりりと身を固めた騎馬武者三〇騎ばかりの集団が
水の手橋から一斉に走り出していく。
五里ばかりの川下の白石の瀬まで馬をとばして、
先頭の舟から一番槍と云われる赤柄の槍を一番矢に受けに駆け付ける、ためである。
(相良藩の川舟を連ねた参勤交代の光景は、錦絵を見るような名状し難い美しさ、華やかさであった)


同日・同刻ごろ矢嶽村において・・・前代未聞の大事が

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