2014年6月13日金曜日

「印傳極楽金魚」⑫希守池實


ケイスケは昨日の撮影テープをノンリニア編集ソフトが取り込まれている大容量のPCに映像をキャプチャリングしている。スタジオでスイッチングした本線テープとパラで撮影した数台のカメラ分とロケで撮影してきたテープとクライアントの商品カット分と。
三十分番組でも、その数十倍の撮影テープ分をPCに取り込まなければならない。膨大な撮影量のなかから必要なカットだけをつないで三十分番組が出来上がる。大変な作業と段取りがほとんどADの作業になる。早くディレクターになりたいのは当然だ。
ADとはいえ社会人だ。学生時代のサークルのように仲間同士で楽しく過ごした頃の感覚とは正反対だ。エンターテインメントの最たる現場で仕事ができると思い、ひまわりのように浮かれた気分でこの仕事を選んだのに、今の気持ちはどん底を這っている。社会人になったらいじめなど無いかと思っていたのに、仕事を始めてからがいじめられることが多かった。仕事ができないこともあるが、そこに付け込んでとことんいじめられる。当然のことなのだ。そこを押し切って自分の立場を作って行かなければならないのだ。実力が無いものは、黙ってスポイルされるし、実力があっても足の引っ張り合い、蹴落とし、卑怯な上司や同僚なんてざらにいる。
「いいか、君のために苦言を呈しているのだからな。」と言いながらも、明らかにストレス解消の単なるいじめのときもある。

ケイスケが現場で最初に付いたADの先輩は、気も合ってかケイスケの面倒を良く見てくれて、失敗もよくフォローしてくれた。この先輩について行けば仕事も覚えられるし、その先輩がディレクターになったときは力の限りアシスタントでフォローしようと思っていた。

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