2014年6月24日火曜日

時代劇映画シノプシス「相良藩の夏」⑨希守池實


細い月のみがわずかに山道を照らしている暗い夜であった。
七名の若者の出発はすべて極秘のうちに決行され、もし全員が疫病に感染して再び帰ることがなくても、それは「神隠し」として処理されることが、家老と重役の間で確認された。
それぞれの重役が、我が子を事の始末に差し向ける為、皆沈痛の面持ちである。

翌朝、まだ陽の昇る前、竹山の山小屋。
七人の若者は、黙して白装束に身を固め、白布でなお顔を覆い、手指も覆っていた。
得物は皆背負った刀と腰の脇差、それに短めの手槍を持つもの、短弓と矢をしたためるものであった。それぞれの瞳からは、並々ならぬ決意が読み取れた。
「後へは引けぬ、決行するのみぞ。いざ!」
最年長の左近の声が、覆面を通して、異様な響きをもって皆に決行の時を告げた。
目指すはただ、矢嶽村のみである。

同刻頃、矢嶽村のはずれ。

山村の子供たちの朝は大人の誰よりも早い。

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