2013年6月6日木曜日

「さらばカサノヴァ」序章

―この[さらばカサノヴァ][カサノヴァ探偵局]の序章である。現在執筆中の“新宿三丁目雑人事件”カサノヴァ探偵局事件簿Ⅰ「捨てられ少女」の序章に過ぎない。―

「この店“ペインフルレイン”と言うけど、痛風持ちの中年オヤジどもでも集まる店かい。痛みってい云う意味だっけ、何か辛気臭いネーミングだな。」

「お客さん、何飲まれます。」
バーテンダーは、その道の常道であるお客のむかつく話には極力気にせず平常心で対応する。
「バーボン、エズラ12年のソーダ割りをくれ。ロックグラスに氷とバーボンソーダだ。つまり濃い目のソーダ割りを。今言うハイボール。ハイボールと言うと今はウイスキーメーカーの企みキャンペーンでレトロなハイボールを流行らせただろう。それまでは、ハイボールと言えば、オヤジの言い方だったけどな。はっはっは。」
若いのに眉間に皺寄せたバーテンにしては一癖ありそうな筋肉質のバーテンが、12年物のバーボンウイスキー<エズラ>をぶっ掻いて綺麗に丸くした氷を入れ、グラスにバーボンとソーダを注ぎながら、北條を睨みつけたまっすぐな目線で、
「お客さん、最近いらっしゃいますけどよい人か悪い人か、バーにとって、わからない人ですね。と言うか、癖がいいのか悪いのかわからない。はっきり言わせもらえば酒癖悪いでしょう。」
「バッカスのカミが与えてくれた酒飲むのだから、酔うのは当たり前。」
「この店では大声出したり知り合いではない人に勝手に声かけたり、いかにも酔ってカウンターに同席するお客さんに迷惑かけるようだったら出て行ってもらいます。出禁の酔っ払いオヤジたくさんいますから・・・」
「窮屈な店だなー。それじゃかえって悪酔いするじゃないか。ま、郷に入ったら郷に従えか。ルールがあるからしょうがないな。でも決まりがあると破ってみたくなるのが酔っ払いの性分だぜ。」
肩肘張ってグッと一気にバーボンを流し込んだ北條は、
「このバーボンウイスキーは、やっぱうまいねー。私たち大好きウイ、スキー。ボトルのラベルの絵ズラがいいもんねー。ってか」
バーテンはあきれてレコードの架け替えに行った。クラプトンの“レイラ”のオープニング、ギターのリードがなり始めた。
 はっきりしない天気が続いていた。梅雨にいつ入ったのか晴れたり雨が降ったり、生活に勢いがつかない日々だった。
ちょうどいいか、こんな天気が続けば、撮影延期になって休めてちょうどいいや。しかし無駄に製作経費が嵩んでいくばかりかな。北條はスポンサーからの釈然としない突然の撮影延期のお達しに、むしゃくしゃしながらも、天気のせいにしてなんとか気を静めていた。


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